1.古代より 人も神も ふき寄せた浜
入り海に現れた神「えべっさん」
吾妹子に 猪名野は見せつ 名次山 角の松原 いつか示さむ」……
万葉集に歌われた西宮である。名次山から見渡せる景色の中に角(津門)を中心とする海辺の景色が読まれている。現在の廣田神社から阪神西宮・今津周辺まで、古来は内海を形成していた。(図参照)夙川は蛇行し、越水山から入り江に注ぎ込み、砂嘴がその入り江の入口を横切っている。現在の旧国道から中央商店街への道を南北に見ると東西の道だけが盛り上がっているのがその証である。その根元の部分に西宮で親しまれてきた神様「えべっさん」は鎮座する。
海辺であったこの地には海の幸はもちろん、渡来人や交易による珍しい産物、時には神様までが流れ着き、吹き寄せられ、町が発展して来たと想像する。そのような連綿と続く歴史の中で「えべっさん」は様々な表情を見せて応えてくれる。
時に鳴尾の浜から引き上げられた漂着神として、前庭にできた市を守る商売繁昌の神として、また文楽につながる傀儡師が信仰する芸能の神として、また、あらゆる人々にラッキーをもたらす福の神として、その時代ごとに人々の願いを重ね合わせ、笑顔で添りそってきた神様も日本中でも珍しいのではないかと思う。
※写真は古代の西宮をイメージしたものです。現在の風景ではありません
歴史秘話にしのみや【ウブスナ】vol.3-1